Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第十回
梅雨を慕う心に、海の底の都


第17回Shingo Tokihiroコレクションから
 一昨日の6月8日(日)。東京でのコレクションを終えて次の舞台の準備をする合間にこの文章をしたためています。今回のテーマは[優しい歌]。今、思い返しても作品のひとつ、一つが歌をうたい、優しい調べを奏でていたような気がします。デザインしたのは私であっても、素材や縫製、モデルに音楽、環境は与えられるもの。それをどう一つのスタイルとして表現できるか。ホテルの貴賓室でのサロンスタイルで披露できた今回のコレクションで、ようやく、ふさわしい場所を見つけたようです。第17回目でした。

 部屋はいただいた、たくさんのカサブランカの香りが霧のように立ち込めています。私は泳ぐように流れる時間に身を任せています。去りきらない疲れと次のシーンへの期待とがゆっくりと渦を巻いています。終らない旅。今夕、訪ねてきた若い写真家に「私のコレクションに来られて、幸せと思っていただいたら、誰かが幸せになっていると信じています。だから、リスクを負ってでもショウをしようと思うんですね。」と、話しながら、ああ、確かに私は有名になりたいとか、大きくなりたいとか思ったことが一度もなかったと思うのです。「美」のもつ力を信じて、この悲しみと苦しみの溢れた世界を何とか、喜びで埋めていきたいと願ってここまできました。私ができることで。気がつけば多くのひとびとと関わり、助けられている自分です。

 心を見抜ける方が、私の作品を求めたとしても、そこに邪まな思いを決して見出せない自信はあります。私はこの仕事を好きなのではなく、愛しているのですから。私一人の力ではないのです。


湖に浮かぶホテルの夕映え(インド)
 この部屋に、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を朗読したテープが、流れています。《本当の幸い》と彼は何度も繰り返しジョバンニに語らせます。私は何を残せるのでしょう。星祭りケンタウル祭の夜、丘の上から見た町の灯りは海の底のけしきのようだというくだりを聞きながら、いつか行ったインドの、夜通し走るひどく揺れる車から、意味もなく眺めていた街の店先をかざるカラフルなイルミネーションを思い出していました。ささやかな、寂しさとそれでもほのかに幸福の感じられる。赤や緑や青や黄が闇の中で希望のように、優しさをたたえていました。

 やがて、東京も梅雨がやってきます。一年一度、本当にかぎられた期間の季節。いつの間にか私が好きになった。私は人間から、自然になろうと願っているのかもしれません。

東京のアトリエにて