Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第二十八回
愛逢月に現われた美女は

 夏の蒸し暑い昼の最中にこの文章を打ちながら見えているのは、夜をはしる黒雲の縁を白金に縁取る大きな月の様子です。7月17日に東京のコレクションを終えました。「美女伝」。私がいつかテーマにしたかったコレクションが実現しました。ショウはいつになくシンプルで、時間の合間を通り抜ける風のようにあっけなく終りました。私の選んだ美女たちは、ベアトリーチェ・ポルティナ―リ、アマミキヨ、沈青、王昭君、虞美人、蓮妙、西王母。彼女達の名を上げていきながら、今回はアジアの女性が多いのに我ながら驚いたものです。俗に言う、楊貴妃、クレオパトラ、トロイア戦争の元となった美女、へレネーなど私にとっての美の基準には立っていません。彼女達はあくまで「女」という肉体をもって美女となす者たち。私の中の基準は純潔であることが、大切なのでした。ある者は父親のために荒れ狂う海に身を投げ、ある者は戦いに赴く夫の戦意を阻まないよう自害する。またある者は龍の身となって、修道者の庇護者となり、女人往生を遂げていく。精神の高潔さからくる美しさを湛えた女性こそが私の想う美女なのです。唯一、西洋の美女として登場したのはベアトリーチェ。ダンテの神曲において神学の象徴として現われ、現世で迷えるダンテに救いをさしのべ、天上の極みまで導き、全ての中心に愛があると悟らしめるのでした。コレクションの中で、一人一人について、解説してゆくうちにまるで、彼女達の供養をしているような気分に襲われてくるのでした。フィナーレでモデル達と一緒に、彼女達もまた立っていたような、そんな不可思議な体感をしたコレクション。美をもって捧げる彼女達へのオマージュ。

 8月27日、大阪でのコレクション。同じ美女伝でありながら 東京と違う美女達が私の心におりてきます。彼女達が私のコレクションを選んだのだと実感しています。さあ、今度はどんな美女が現われるのか。目を閉じて静かに静に芳しい風と共に彼女達が訪れるのを待っています。

(リリック 東京)