Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第三十二回
神の島と能舞台の聖域


佐渡 小木町の街中のまつり
 八月が終ろうとしています。今年も新潟・りゅうとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズが始まりました。八月は「オセロー」。それから、鼓童の本拠地、佐渡は小木で恒例のEarth Celebrationに参加しました・・・・。心に七色の宝石が転がり込んだ八月の旅です。

 観光客や、ECに行く外人や若者達に溢れるフェリーに乗りながら、昨年、始めて参加したECでの自然との不可思議で圧倒的な交流体験を思い出していた。今回も〈宵のゆんづる〉の衣装を担当する。普段は静かな小木の港町が、この3日間だけはどこに行っても人、ひと人で。一日中、どこかで音楽(お囃子)が聴こえている別世界に変わります。今年〈宵のゆんづる〉は八月十八日〜二十日の最後を飾るフリンジ。

 用意したのは中心で舞う小島千絵子さんはクリスタルの冠に山吹のドレスに大輪の薔薇のプリントしたチュニックで太陽を、演奏するのはゲスト、パーカッションの渡辺亮、作曲家で今回は笛の木村俊介両氏。鼓動から鬼澤綾子、宮崎正美、砂畑好江の三人。彼らは南洋植物、大小水玉にストライプのプリント、地色は白と朱鷺色の二色の衣装。記憶を失うような、或いはゆるやかな波に揺れているような宵のゆんづるが、港の公園で始まると、突然、全く違った世界が現われてきました。芝生で寝転んでいた若者達もこの典雅な世界に魅入られたかのようです。単調なメロディのくりかえし、でも遠い昔に聴いたことがあるような。

 私はゆっくりと円陣を組んで、時を刻むように巡る踊りの輪を遠くに見つめています。半裸だったり、Tシャツに短パン、民族風な服をきたカジュアルなスタイルの観客の向こうに、藍に銀の小巾をもって踊るワークショップの参加者達、さらに中心の舞台のうえに芙蓉の花を思わせる演奏者、その一段高く小島千絵子氏が周囲の気を動かすように淀まない動きで舞っている。舞うたびにクリスタルの冠が周囲に光を放つ。夜十時過ぎから始まり、その日最後のフェリーが出港するのを見送るまで続きます。忘れていたことを思い出していました。このところ、あまりの忙しさに現実の生活のことばかり、損得ばかりを計算しながら一喜一鬱していた自分であったことを。今、目の前に繰り広げられている舞台はただのエンターテイメントではない、このEarth Celebrationが地球祝祭である如く、天に奉納しているのだと実感する。かつて、多くの芸能が自然の神々や運命を司る何か在るものに捧げられたように。日々のあれこれを思い煩うのではなく、衣装デザインを天職として私を招んだ美の神の願いに叶うことに焦点を定める。そうすれば、必ず守られる。今までもそうではなかったかと自分に問うているのでした。昨年は月からこの踊りの輪が華のように見えればと願いました。今年、宵のゆんづるは心ある舞いと歌と音と衣装が一つの香りとなって、星だけがさんざめく空に向かって立ち昇っていきました。

小木港から 恒例 鼓童連中の送り出し

 祭りが果てて一人民宿へ帰ります。暗い道、潮の香りがします。私は「神の島」とつぶやきます。星だけが頭上で笑っていました。まるで私の心をみているように。

 二十二日、新潟りゅうとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ第四弾「オセロー」の初日です。演出家の栗田芳宏氏はこの作品はもっとも興味あるものだったようです。けれど、私はといえば「オセロー」は苦手というか、嫌いな作品だったのです。イアーゴというオセローの旗手に周囲の人物たちが見事に騙されていく。自分の最も愛する妻さえも手にかけるオセローの愚かさと、騙されていく人間達のお人よしに気持ちが暗くなる。しかし、この作品がシェークスピアの四大悲劇のひとつとして多くの人々の支持をえてきたのです。でも、私は好きになれない。それなのに衣装のデザインは悩むこともなく湧いてくる。出来上がった衣装を演出家を始めスタッフは評価してくれても、私の中で今ひとつ迷いがある。「本当にこの衣装でいいのかと。」こんな経験は初めてなので戸惑っていました。リハーサルを何度も観ながらこの「オセロー」との縁を思うのです。いつの間にか、実力をつけてきた新潟の役者たちを頼もしく思いながら、今回も栗田氏の意表をつき遊び心のある演出に感心しながら、この衣裳がそれぞれの役柄を反映しているのかと・・・。余りに気にやむのも謙遜傲慢とも思う。

「オセロー」の舞台から

 そんな気持ちを抱きながら迎えた初日。今は私の手を離れた衣裳たちも舞台で懸命にその役を演じているのを目の当たりにして、ただ感謝の思いがでてくるのでした。このシリーズには私の楽しみがあります。作品が変わるたびに自分から出てくるデザインが違ってくる。確かに私のデザインなのだけれど、私でないものがデザインさせているような。いつも胆に命じていることは心を澄ませていること。なかなかそうはいきませんが、シェイクスピアと世阿弥が赦す限りこのシリーズとお付き合いできればと願っています。

 加えて、今年12月に新潟で栗田芳宏氏がカンパニーを旗揚げすることになった。第一回は「リア王」。どこの劇団もそうであるように「予算はないけれど、時広に衣裳は頼みたい」と言われ、その瞬間に殆どの衣装でザインは終わっているのです。能楽堂・・・とはまた違う時広の別の〈カタチ〉がそこにありました。「おもしろいなあ」と自分ことを楽しんでいる時広です。気負わず自然体です。

 この原稿を日曜日、葉月の27日に打っています。東京は曇り、順調に秋が訪れています。28日から「オセロー」東京公演が始まります。ホントはもっと多くの方たちに観て頂きたい作品です。いつかそうなるようにと念じながら、次の舞台の衣裳にかかります。

(リリック 東京)