Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第三十三回
長月に如月のこと


 初めてのカナダ、トロント。カナダで活躍する日本人の現代舞踊家が主催する「Green Tea―Dai Don Den 2−」で、そこに参加する舞踊家、啓子トムソン(北野啓子)氏の衣裳を担当することになったのです。加えて私も舞台に仮面をつけて後見として立つことになりました。前日まで出張をしていて慌ただしい時間を過ごした翌日の出発。そうそう私が彼女と知り合ったのは日本で、私がプロデュースする「四つの花の会」にも参加してもらったりして、交流がつづいていました。その後、彼女はご主人の母国カナダへと移住したのです。もちろん、かの地でもダンサーとしての可能性を追求しつづけています。そんな彼女からの依頼だったのです。太平洋を渡る長い長いフライト、シカゴでの煩わしいトランジットにも気持ちが今ひとつ盛り上がりません。そうして着いたトロント。迎えにきてくれたRickと啓子夫妻。そのままリハーサルをしているThe Winchester Street Theatreへ。早速リハーサル。前のりしているメンバーたちはある程度のカタチができているなかで、口頭で説明を受けすぐに動きをする。しかし、視界のせまい仮面をつけ周りの状況をわからず、指示を受けるのは旅の疲れも手伝い私の神経をイライラさせるのでした。思わず「そんなこといわれても、何もわからないでしょう!動けないよ!!」と言ってしまう。険悪でもないけれども、あの時溜まっていたフラストレーションが爆発したのだと思います。他のダンサー達のリハーサルのタイムスケジュールが詰まっていて彼女も焦っていたのでしょう。宿泊はリックの一人暮らしの叔母さまの家でのホームステイ。経験がない私にはそのことも気を重くしたのです。まともな英語を話せないし、リハーサルで遅くなるとどうすればいいのか、寝ているところを起こさなければならないとか、叔母様が私という人間を気に入らなかったら等々(後で、それは全く楽しいまた心温まる思い出になるのですが)。


 でも、天候に恵まれた日々はまた、私にいつもの力を与えてくれることを感じてきたのです。私の宿泊した界隈は新興の高級住宅地。叔母さまの家はプール付。これまでも2〜3人同時にホームステイをさせた経験の持ち主。滞在中も朝食の時間にお互いの家族やカナダ人についてのことなど、あと旅行がすきな彼女のギリシアやイタリアの旅の話などいろいろと盛り上がりました。

 7人のダンサー達が自分で振り付けした作品を発表するこのパフォーマンス。彼らを通じて海外で創作をし発表していくことのやりがいと困難さを垣間見た気がします。彼等は私の衣裳にも興味をもってくれましたが、少ない予算にも拘わらず自分のギャランティを削ってまで、わざわざ日本からデザイナーや音楽のアーティストを呼ぶ北野啓子氏の作品の[質]に対するこだわりは、やはり素晴らしいと思うし、作品自体のクオリティの調和と高さは観る人たちに伝わったはずです。私たちも彼女の芸術家魂に応えたいと思いました。人は[心]で動くことを改めて実感した時でもありました。そして、よく笑ったカナダの時間であった気がします。食事をしながら、楽屋で、町を散策しながら・・・・・。

 冬の晴れ渡る空の下、トロントの街を歩きながら感謝の思いが今振りそそぐこの太陽の光の温かさと同じように湧いてくるのです。

 彼女の舞台[彼岸のかなた]を終えた翌日、私の衣裳を撮影しようと郊外の公園と翌々日は夫君のRickと映像製作の友人のRadekが働く大学へいきました。五大湖を背景に吹き渡る強風に私の朱雀を描いた(タイの染色作家 アヌロウ タンティアポンに依頼)のドレスとグリーンのガウンにベージュのガウン。リックとラデェックも撮影します。[寒い!寒〜イ!]と叫びながらの撮影です。手はかじかんで感覚がなくなってきます。それでも啓子氏はいざとなるとポーズを決めていきブレがない。さすが!と褒め称え?!少しでも長く撮ろうとします。リックとラデェックと八雲浄麿の三人三様の写真も興味深いものがあります。月の美しい長月に、ふとこの美しい想い出を書いていなかったと、急ぎ書き記しておきます。またひとつ海外に訪ねる場所ができたことを記念して。

(リリック 東京)