Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第三十五回
巡る螺旋の新しい年を前に


国民文化祭2006山口美術工芸の会場で、藍染めの染色作家、飴村秀子氏と
 あと2日で2006年が終ります。早かったと感じながら思い出せば、あんなことも、あれもこの一年に起きたことなのだと知ってなるほど365日は長いとも知る。今年もいろんなところへ旅してきました。海外も国内も同じ場所を訪れてもこちらの心持が違えば、全然その様子が違います。私自身この一年の間に何度となくこの「おしゃれ旅情」を読み返しては、忘れかけていた情景と共に感情の動きさえも甦ってくるのがわかるのです。今年最後のおしゃれ旅情を書く私の正直な気持ち。希望と痛みの両方を身の内に感じています。創造する事を生業とするものは結局孤独であるという事実は知っていても。理由もなく一方的に終ってしまう友情(その時点で友情ではなかったのかもしれませんが)。言葉はやはり言葉でしかない、あてどないものを信用することで傷つくことはこれまでも何度もあったけれども、結局、人の大きさというものは言葉ではわからないということでしょうか。「心」というこの捕らえがたい存在を言葉に信頼しすぎることの愚かさを教えられた今年の最後でした。


祝迫義郎氏に依頼したオブジェと初めて手がけた藍染め作品とのスタイリング(金銀摺り箔は京都、白井柄箔匠・白井達也作)
 同時に新しい出会いもまたどれほどしたでしょうか。それらのどれが長く続くものとなるのか。あるいはまるで陽炎のように瞬間のものなのか。私の心は信じることを鬱陶しく感じる気持ちとそれでも信じていこうとさらに強く願う気持ちとが葛藤して透明になっていくようです。

 来年5月にリリックが20周年を迎えます。

 舞台衣装デザイナーとしての実力が問われる年になるでしょう。作品集「世界」も5月には出版の運びです!とは言っても素直に自然に仕事をするだけですが・・・。デザインだけはあとからあとから年々大きなうねりとなって私を包んでくるので恐ろしいくらい幸せです。それから、誰にも好かれたいという「新人アイドル」的発想はスッパリ捨てて、時広真吾のような人間、あるいは作品を好きな人たちと刺激し合いながらさらに成長していくことに専念します。私は私でしかないですから。


最近、リリックでの撮影が増えてきました。横笛演奏家・朱鷺たたら氏の撮影風景のスナップ
 どんな仕事に出会うかはご縁です。ホントに仕事は電話一本で決まることがあるのですから。一年の周期は同じ場所を通過することなく螺旋状になっています。51周目を巡りながら心はより深く広く、仕事はより高く広がっていると信じています。それは私の作品たちが教えてくれるでしょう。振り返るものもあり、未来を展望することもできる今が私の充実している時なのかもしれません。「永遠をカタチにしたい」と私は作品集で記しています。もしこの一年で私が成長したとするならば何をするにしても、いつも世界をより感じるようになったことでしょうか。人が人である証は「品性」であろうと思うのです。

 今年も来年もこれからも私の最後の決断の基準は「美に叶っているかどうか」です。感動したことも悔いたことも傷ついたことも感謝したことも嬉しかったことも戸惑ったことも、全てを美で濾過して一つの作品に創りあげていきたいと思います。今私は心という千変万化する光の川に、意志という名の小舟で新しい年の船出を待っています。


徳島市、眉山山頂からの風景。期せずして2007年秋に徳島での仕事の依頼が舞い込んできたのでした

(師走 東京)