Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第五十回
涼暮月の雲の旅


赤い座席:兵庫県立芸術文化センター中ホール

涼暮月・・・ 楽屋の様子
 五月は兵庫、東京、名古屋と[メディア]の舞台で旅をしました。黒い壁に赤いシートの兵庫県立芸術センター中ホール、明るいベージュ色の壁に紫のシートのシアター1010、ゆるやかなスロープをもった座席の名鉄ホール。各劇場の個性をもった空間では、演じられる舞台は同じでも全く違ったものに見えてくる不思議さ。お気に入りの役者の熱烈なファンたちはツアーについてくる人たちもいるのです。いろんな劇場での見え方の違いは、生の舞台の贅沢さです。ファンはそのことを知っているのだろうと思います。表舞台では、夫の自分への愛の裏切りのために、二人の間に生まれた子供を殺すという凄惨な芝居が展開しているのに、扉の、カーテンの裏側では、出番を終えた役者がテレビを観ていたりして、まるで日常の時間が流れている。その強いコントラストが妙に心を打った今回の旅でした。私は舞台の袖で衣装の早替えのために他のスタッフと待ち構えています。芝居の間中、現実と虚構の世界を何度も往復しながら、私自身の感覚が微妙に狂い始めてくるような、油の中を泳いでいる感覚といったらいいのでしょうか。もちろん舞台の間は、緊張感はあるのですが、今そこで激しい口論をしていた役者が、戻ってきて着替えをしている。そして、再び、幕の向こうの異空間へ向かっていく後姿。

紫の座席:シアター1010
それは、戦場へ向かっていく兵士のも思えてならないのでした。もちろん、観客の声援と拍手を直接浴びる歓びは大きいのでしょうけれど、一旦舞台に出たら誰も助けてくれない孤独な、しかもある意味、自分を晒していく役者という道。衣装デザイナーとして、いろんな分野の[板]の上にたつ人間たちをみてきて、やはり[役者]は他の生業の人間たちと違う色があるように思えるのです。

 来月は欧州五ヶ国の演劇祭に参加する旅が待っています。一ヶ月近い行程に何が待ち受けているのでしょう。生身の役者たちとの共同生活と舞台の上のもう一つの世界の住人となった役者たち。衣装たちが異界を創り上げていく一つの要素になっていくでしょう。中央ヨーロッパをバスで巡りながら、言葉の通じない国々で上演してゆく舞台がどのようにどう受け取られていくのでしょう。恐さも緊張感もありません。[冬物語]は美しい舞台に仕上がっていますから。その力を信じています。

風の衣


涼暮月:冬物語劇場版の舞台美術(新潟、りゅーとぴあ)
 「それなら、撮影しましょう。これも何かのご縁だから」「ええ、嬉しいです」と会話が始まったのは、四月、お知り合いの披露宴の席でした。そのお二人は結婚式の写真がないということでしたから。私の衣装を着て思い出の海でねと約束して2ヶ月が経ちました。その日は晴れてはいても潮風が心地よい優しい海岸線でした。聞いたところ事前にロケーションしていたとのこと。海岸線を望む高台であったり、崖の地層が面白いポイントであったり絵になる場所でした。デザイナー時広真吾から写真家八雲浄麿になって、衣装を決め、ポーズをリクエストします。お二人は撮りはじめの時こそ、少し恥ずかしそうにしていましたが、ドンドン世界にはまっていったのか、良い(カタチ)と雰囲気をかもしだしてくれました。普通のラブラブなツーショットでは余りにありきたりでつまらないからと、舞台衣装を着てもらい撮影することにしたのです。私の用意した衣装の中に、大きなショールや、風を孕むデザインのガウンがありました。

風の衣用写真
 あるプロデューサーが私の衣装をみて、「風が着る衣装だな」と表現したことがあります。その衣装をきて、太平洋を渡ってくる風に向かって衣装を翻す二人。

 目の前に広がる海と海岸線、青い空と千変万化する風の通り道。彼らの気持ちも私自身の気持ちも解放されていくのがわかります。そこには結婚の記念写真を超えた一つの物語のような写真がありました。「自分たちじゃないみたい。撮る前に予想していたのと全然違ってました。」と感想を述べる彼らの喜びの顔。

 その様子をみて、心の中で「衣装が私をまた、このように幸せへ導いてくれた」と感謝しているのです。このお二人とこうして撮影ができたことも、恵まれ天気であったことも、全てが(縁)で結ばれているのだと思うのです。そう考えると小さなことに一喜一憂しなくなりました。後日、彼らから「家の両親に見せたら、家族から歓声が上がりました」との報告がとどきました。これも、時広なんです。自然体の・・・。

(リリック 東京)