Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第六十四回
雪の風に吹かれ、花の香りが降り注ぐ


佐渡・大膳神社の能楽堂
 東京に戻ってきて、リリックの扉を開けた時、何だか止まっていた時間が見えた気がしました。それとも、私を待っていたのだろうか。3月の始めから中旬まで、ずっと旅していました。佐渡、新潟、宇部、長崎、下関、萩、敦賀、京都、奈良、大阪、徳島。春のうららかな陽射しも、突然の大雪も、沈丁花の甘い香りも、海の匂いも、まだ、私の中で緩やかに揺れています。

 宇部では甥っ子の結婚式。お嫁さんのドレスをデザインしました。「美の種」のプロジェクトの2度目の打ち合わせ。新しい街へこのプロジェクト実現の打診。北陸から西国の果てまで、長い距離を一人旅する私を「幸せな人」と呼びます。そう、確かに幸せなのですね、私は・・・・。


初めての甥の結婚式
 人の心変わりを目の当たりにしたり、年齢と共に壊れかけていく姿を見たり、自分自身の衰えを感じたり。旅は色んなことを教えてくれます。それ以上に、未来に不安や、現実に不満を募らせている世情であるにも拘らず、出会う人々の真っ直ぐな心情に心打たれていくのです。何が良くて、何が悪いのか、何が吉で何が凶なのか。

 完全に他力本願の私は、状況がどう変わろうと信じたことは必ず成し遂げられることを信じています。信じる戦いかもしれません。春風と共に移動し、曇天より降りくる億千万の雪のかけらに語りかけ、優しくなった海の色を聴いています。なぜ、こんなにも沢山の人々が、自信のエネルギーと時間を割いて協力してくださるのか。「私心」がないということの貴さと力を、実感しています。


突然の大雪が、めったに見られない景色を用意してくれた。瑠璃光寺:山口市


東大寺の修二会(お水取り)の頃咲く藪椿。奈良では「糊こぼし」と呼ぶ白い斑のある椿で、僧侶たちは紙で、この椿をモデルに造花を作り仏に捧げる。東大寺:奈良市

 厳しい時代だからこそ、その人となりが露わにでてくる。その人が何を信じ、どう生きたいと願っているのか。どなたかが、メールで「この美の種は、時広さんが一生をかけて続けているプロジェクトだから・・・・」と、書いてこられました。そんなに深い考えもなく、ただ、自然に湧き上がってきたことを実行に移しているだけのことだったのですが。

 いうんです。「もしも、美の神様がこのプロジェクトに私が必要なくなれば、やりたいと思ってもやれなくなる。」気力や体力がなくなってくることもその一つでしょうか。今回の旅で痛感したのは「責任」でした。情熱を持って参加してくださるパフォーマーを始め、スタッフに対する責任。何故、私はこのプロジェクトを始めようと思ったのか。常に動機に立ち返ります。

 私にとっての「美」は人間性、人間らしさを思い出させる、自覚させること。それは生きることの希望と喜びへ導いてくれます。

以前のおしゃれ旅情で、何かを起こすとき、必ず以前の時以上のことを要求されて、そのことが億劫にもなると書いたことがありました。大げさですけど「死なんとする者は生きる」の言葉を何度か実感してきたこの身に、「美の種」のプロジェクトもまた、同じことを私に要求しています。

 さあ、どうなりますか。

 でも、私は心配していません。何故なら、協力しようと参加する情熱を持った方たちの、文字通り「私心」の無い心に出会っているのですから。だから、私は幸せの旅の途上に今もいます。

2010.3.19 リリック / 東京