Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第七十回
東北の雪の街も、南の海のかなたの国も


クアラルンプールの市場で、果物も野菜も種類が豊富

 如月最後の日、霙降る東京で、おしゃれ旅情をリリックで書いています。

 雪の中の福島での撮影、連日30度を超えるクアラルンプールの日々。そのどれもが、清清しい友情で結ばれていて、思い出す度に微笑が浮かんできます。

 福島での撮影は一つの思い入れがありました。出会ってから20数年を越えても変わらず、「青蓮」を撮影する唯一のカメラマンとして知る人ぞ知る大和伸一さん。昨年末の出来事から、どうしても作品集に入れたいと願うカットがあり、スケジュールをぬって訪れたのです。撮影の為というより、心がフーと深呼吸したくなる時に訪れる場所。いつも、ありのままの私を迎えてくれる伸一、美恵子夫妻。そして、ゆず沢の茶屋、福島の人々。四季の自然の中で、青蓮を撮り続け、環境も人も移り変わりながら、人の温もりは決して変化することなく、時間はゆっくりと芳醇さを増していくようです。モデルとカメラマンとたった二人での撮影現場。アシスタントも、スタイリストもなく、本当にシンプルな撮影。そこから生まれる写真は、英国の劇評家Boika Sokolovaをして「これは見える哲学。」と言わしめました。

 「信頼」が生む独自の美の世界。時広が世界に出ていけば、より高いレベルで真価を問われる場に出会います。自然体で撮る、撮られる関係を続け、豊かな愛情に裏打ちされた美の世界を表現したいと願うのです。


今回の衣装展のきっかけをつくってくれたジョウとファリダ夫妻


展示会の為に奔走してくれた九貝京子さんとアート夫妻とその家族。ご自宅でのバイキングをご馳走になりました。お魚中心のヘルシーなもの

 2011年前半の大きなエポックは、クアラルンプール(マレーシア)

にあるKLPac(クアルンプール パフォーミング アーツセンター)での、私の衣装展、ワークショップそして、オープニングのパフォーマンスでした。

 結果からいえば、大成功。

 7年前に、他のプロジェクトで舞台衣装のワークショップでこの地を訪れ、その後 現地の劇団の衣装の依頼を受けたのでした。その後、この地を訪れることはなかったけれども、俳優でもあり、演出家でもあり、マレーシアの近代演劇を育てた二つの夫婦の一つであるFaridah Merican と Joe Hashuam OAMのご夫妻に7年振りに会った瞬間に、会わなかった七年は氷が解けるようになくなり、懐かしさと同時に変わらない「絆」を確かめたのでした。

 私の衣装展は日本でも、京都市立美術館で舞台「阿国、わらう」の衣装展、私の故郷の山口県宇部で、友人のギャラリースペース、ルナーレ一で催した以外は、パフォーマンス会場で数点展示するぐらいだったのです。


旧正月の最後の日、マレーシアやシンガポールでは、野菜と魚、麺を混ぜたものを箸で、高く上げながら、今年の幸運を願う


KLに滞在していたレジデンスの朝。プライベートの庭の向こうにペトロナス ツインタワーが見える

 この衣装展の準備は、国際文化交流基金クアラルンプールオフィスの主催で、現地のスタッフと荷造り、荷出し、運びは全て自分ひとりで行い、展示も現地スタッフと私の二人で行いました。スタッフが少ない分、体力は必要ですが、気を使わずに自分のペースでできたこと。KLPacのスタッフの心温まるサポートにJALのサポートが嬉しく、心に沁みます。

 単なるスピーチと乾杯の、決まりきったオープニングが嫌で、展示では見れない動く衣装を見ていただきたいと「時の夢」と題して、マレーシアの4人のアーティストたちとのコラボを快く受け入れていただき、実現に奔走してくれました。その結果は、また、多くの心を(move)したと、評価されました。

 連日30度を越える真夏の日々、そして、夜の涼やかな林からの風。こずえの向こうに御伽噺のように見えるペトロナス ツインタワーとKLタワー。

 衣装のワークショップも、好評の為に一回追加したほどで、参加者はファッション専門学校の先生や生徒から、KLに在住する外国人も含めて多彩でした。一つのテーマを、一枚の布と鋏で創り、自分で纏い表現する内容は、とても新鮮だったようです。

 毎晩、部屋にもどり、月を仰ぎながら、何故、訪れる場所で、人々はこんな私を、迎え入れてくるのだろうと、感謝のうちにも自問する自分がいます。

 美は調和。今回はマレーシアと日本の人と、モノと心で創り上げる美の世界でした。


リハーサルと本番の合間に、パフォーマーとスタッフで記念写真
 「時の夢 dream of time」の副題は A SANCTUARY OF HARMONY & BEAUTY(調和と美の聖域)。

 世界が、この世界がそうなって欲しいと大それた願いと祈り。それでもいつの日か。その日が来ることを信じて新しい船出を許されたクアラルンプールでの日々でした。

 最後に、パフォーマンスの中で冬の声楽家が歌い、観客も感動して涙した人もいた IDAの文字の歌詞の一節を。翻訳していただいた英語訳で。日本語は中空一詩集「遠望」に収まっています。

Hushed silence dream lying prone at the water's bottom

Silence of  limitless destinies discarded shame

OH world you mustn't perish

The power that is A and O as well as H
Will transform tears into flowers

Spring, when young shoots sprout out in joy

Strength is restored by the sun's rays

Oh idea home pure melody now to my heart

Now my heart

 曲は名和克浩氏につけていただきました。

 イタリア語と日本語で歌うことができます。この美しい調べを聴いていただける機会が来ることを信じて。

 既に、山のように詰まれた三月の仕事を目の前にして、呆然としながら、2月の旅の報告をできることを感謝しています。

(リリック 東京)