Shingo Tokihiroのおしゃれ旅情

第七十一回
春は逝き、夏は来る

作品集のキャンペーンで訪れた奈良。東大寺二月堂から

島根県・奥出雲、高低差のある牧地で飼われている牛たちが、戻ってくるところ。(山登牧場)
 3月がアッという間に過ぎて、もう四月。近くの目黒川の桜は連日の強い風に、アッという間に散りさり、アレだけの喧騒を呈した人々も嘘のようにその姿を消してしまいました。

 2月。マレーシアへ向かう飛行機の中で私は韓国映画「TSUNAMI」を観ていました。10メートルの高さの津波が韓国のある町を襲うという内容でした。それを遥かに超えた現実が起きるとは予想だにせずに。テレビが繰り返す映像は、どうしても現実感がありません。それはあの日の朝、阪神大震災の様子を見ながらどうしても、それが現実に思えなかったことを思い出させていました。

 11日はアトリエで仕事をしていました。揺れはありましたが、何か壊れたのでもなく、普段から揺れることになれている身にはそれ程のこととも思えませんでした。

 私は変わらず、いつものように衣装をデザインして、アクセサリーを創り、イベントの構想をパソコンに打ち込んだり。傍らのテレビは襲う津波の状況を逐一伝えています。海が盛り上がり、車が紙のおもちゃ箱のように流されて、船も流されて。でも、どうしても私には実感が湧きません。感情が止まった様に映像を眺めていると涙がつーッと、流れてきました。悲しいのでもなく、怒りでもなく、ただ深いところからの涙でした。

 海外からの友人たちからの温かいメッセージも続々と届きました。何も変わっていない自分に申し訳ない気持ちさえ抱きながら、届くメールに返信します。


暮れなずむ山口県・萩市、菊が浜
新潟県・五泉市の水芭蕉に夏を想う
 あの涙は何だったんだろう。 今も 時折考えます。

 目の前の仕事をこなしていく毎日。

 作品集の出版とそのキャンペーンで、西国を回りました。巷の話題は原発、放射能の影響。私はやはり、巡る街々、出会う人々といつもと同じように冗談を言い、笑い。明るい時間を運んで行きます。「美しいものに触れて、気分が休まった。」「何だか、希望を感じる。」

 やがて、春はこの東京に訪れて桜が満開に咲いて、濁流のように花の下をざわめき歩く人たちが、なんだか、例年より儚げに映ったのは私の思い過ごしかもしれません。

年々、見事になる目黒川の桜
 あれから、「祈る」という言葉、「信じる」という言葉をよく聞いたり、目にしたりするようになりました。第69回のおしゃれ旅情で「太陽にように、月のように」淡々と現実を見つめながら生きていく。

 あの震災から、今も続く将来への不安に対して、安全に保障された環境にいる人々が百花繚乱の意見を述べています。しかし只中にある人は現実を黙々と受け入れながら生きています。

 人の心を動かすもの。それは言葉ではなく、行動だと感じています。

 先日、舞台を観にいきました。楽しくて、ずっと笑っていました。会場も爆笑の渦でした。こんな時だからこそ必要なんだと思いました。

 命あるものは死があり、誕生がある。そんな当然なことを改めて教えられている日々です。だから、これからも更に美しいものを創っていかなければならないと、感じています。それは、創ることは単独ではなく多くの関わりがあってこそ成す事が出来るからです。それは、私にとって絆を結び育むことでもあるのです。

(卯月 東京)